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国際関係論とは何か?(1)
中嶋嶺雄 『国際関係論─同時代史への羅針盤』、中公新書、1992年
「国際政治学」のクラスに使えそうなテキスト(私がそのようなクラスを担当することはまずないでしょうが)を随時「批判的」にレビューすることにしました。
まずは、中国研究で有名な中嶋嶺雄氏の『国際関係論』です。本書は以下のように構成されています。
序章 国際関係論の今日的意義
第一章 国際関係論とはどんな学問か
第二章 国際関係論の展開
第三章 地域研究と国際関係論
第四章 戦後国際関係の歩み
第五章 現代国際関係の諸断面
第六章 社会主義と民族紛争
第七章 外交と国際関係
終章 国際関係の倫理と現実
今週は第一章と第二章についてコメントします。
著者はこの二章で国際関係論とはどのような学問か説明していますが、おかしな議論がいくつか散見されます。中嶋氏は地域研究者としてはかなり国際政治学について精通しているとは思いましたが、中国研究者が国際関係論の概説書を執筆することに多少とも無理があったのでしょう。間違いと思える議論をいくつか指摘しておきます。
★国際関係論と国際政治学の区別
国際関係(論)とは何か。中嶋氏は次のように述べています。
「さまざまなレヴェルでの国際的な接触を広く国際関係international relationsと呼んでよいであろう。」(p.11)
「国際関係論とは、政治的、経済的あるいは文化的などの断面が(国境を越えて)交錯する「場」に成立する諸問題を解明する学問である」(p.11)
「以上で概観したように、現代世界の国際関係は、きわめて広範かつ多面的な接触の断面が交錯するところに成り立っている。このような現代世界の複雑な仕組みや現象を分析して国際社会に生ずる様々な問題を解明し、同時に、現代史の「深部の潮流」を捉えて未来を展望するための新しい学問─それが国際関係論だといってよいだろう。英語では普通、国際関係論をそのままinternational relationsと表現する場合が多いけれど、より正確にはthe study of international relationsというべきであろう。もっともわが国において日本国際政治学会を英語名ではThe Japan Association of International Relationsとしているように、国際関係論と国際政治学との区別も従来、かなり曖昧であった。」(p.21)
別段、おかしいことは言っていないと思います。ちなみに「国際関係」と「国際関係論」を区別するための手として英米の国際政治学者はよく前者を小文字で、後者を大文字で書きます。
で、国際関係論は国際政治学とどう違うのか。K.J. Holstiの以下の説明が一般的に受け入れられているようです。
“the term international relations may refer to all forms of interaction between the members of separate societies, whether government-sponsored or not. The study of international relations includes the analysis of foreign policies or political processes between states; however, with its interest in all facets of relations between distinct societies, it would include as well studies of international trade unions, the International Red Cross, tourism, international trade, transportation, communication, and the development of international values and ethics. The student of international politics is not concerned with these types of relationships or phenomena, except where they impinge upon official government objectives or where they are employed by governments as instruments of inducement to achieve military or political objectives. . . . In international politics, we are concerned with international trade only to the extent that governments may employ economic threats, rewards, or punishments for political purposes, as when they promise to lower tariffs vis-醇A-vis another country in return for the right to establish a military base in that country.”(K.J.Holsti, International Politics: A Framework for Analysis, 6th ed. [1995], p.19).
中嶋氏は国際政治学の定義については詳しく説明していませんが、おそらくホルスティの議論にかなり近い立場をとっていると容易に推測されます。要するに、国際政治学は政府が関わる国家間関係について研究をするが、国際関係論は国境を越えるアクター間の関わりすべてを研究対象とするということです。中嶋氏は国際政治学というディシプリンでは相互依存の深まった現代国際社会を分析するのに不十分であり、国際関係論の国際政治学に対する優位性を暗に示唆しています。
容易に理解しがたかったのは国際政治学を国際関係論に発展させようとした先駆者はE.H.カーであるという主張です。
「E・H・カーが『危機の二〇年』で、当時の新しい学問であった国際政治学から、さらに、国際社会の包括的な解明を目的とする国際関係論へと導こうとした時期に先がけて、すでに欧米では第一次世界大戦前後から国際関係論(the study of international relations)と銘打った著作が刊行されはじめていた。」(p.44)
「以上に見てきたように、国際関係論の構築というE・H・カーの問題提起にもかかわらず、実際には、国際関係論の学問的展開の大半は、国際政治学の学問領域と重なっている。それだけに、国際関係論は、その土台としての地域研究の成果を十分に取り入れることによってこそ、より包括的な体系と内容を整えることになると思われる。国際政治学がしばしば陥りがちな理論信仰を排するためにも、国際政治学をも包括した実証的な総合科学としての国際関係論の確立が望まれるゆえんである。」(p.56)
確かにカーの『危機の二〇年』のサブタイトルはAn Introduction to the Study of International Relationsですが、別に彼はInternational PoliticsとInternational Relationsの区別なんて気にしてなかっただけなのではないでしょうか(調べたわけではありません。単なる推測です)。
個人的には国際政治学と国際関係論の区別なんてどうでもいいと思っています。この区別にこだわっている学者の大半はより包括的な「国際関係論」という用語を使うことを好むようですが、その人たちに軽く尋ねてみてください。「先生は国際、えーと国際なに学者なのですか?」
ほとんどの人は「国際政治学者だよ」と返答しますから。「国際政治学」における「政治」とは何を意味するかなんてほとんどの国際政治学者はいちいち考えたりしていません。自分の研究している学問が国際政治学と呼ばれるようが国際関係論と呼ばれようがどうでもいいことです。
「国際政治学」のクラスに使えそうなテキスト(私がそのようなクラスを担当することはまずないでしょうが)を随時「批判的」にレビューすることにしました。
まずは、中国研究で有名な中嶋嶺雄氏の『国際関係論』です。本書は以下のように構成されています。
序章 国際関係論の今日的意義
第一章 国際関係論とはどんな学問か
第二章 国際関係論の展開
第三章 地域研究と国際関係論
第四章 戦後国際関係の歩み
第五章 現代国際関係の諸断面
第六章 社会主義と民族紛争
第七章 外交と国際関係
終章 国際関係の倫理と現実
今週は第一章と第二章についてコメントします。
著者はこの二章で国際関係論とはどのような学問か説明していますが、おかしな議論がいくつか散見されます。中嶋氏は地域研究者としてはかなり国際政治学について精通しているとは思いましたが、中国研究者が国際関係論の概説書を執筆することに多少とも無理があったのでしょう。間違いと思える議論をいくつか指摘しておきます。
★国際関係論と国際政治学の区別
国際関係(論)とは何か。中嶋氏は次のように述べています。
「さまざまなレヴェルでの国際的な接触を広く国際関係international relationsと呼んでよいであろう。」(p.11)
「国際関係論とは、政治的、経済的あるいは文化的などの断面が(国境を越えて)交錯する「場」に成立する諸問題を解明する学問である」(p.11)
「以上で概観したように、現代世界の国際関係は、きわめて広範かつ多面的な接触の断面が交錯するところに成り立っている。このような現代世界の複雑な仕組みや現象を分析して国際社会に生ずる様々な問題を解明し、同時に、現代史の「深部の潮流」を捉えて未来を展望するための新しい学問─それが国際関係論だといってよいだろう。英語では普通、国際関係論をそのままinternational relationsと表現する場合が多いけれど、より正確にはthe study of international relationsというべきであろう。もっともわが国において日本国際政治学会を英語名ではThe Japan Association of International Relationsとしているように、国際関係論と国際政治学との区別も従来、かなり曖昧であった。」(p.21)
別段、おかしいことは言っていないと思います。ちなみに「国際関係」と「国際関係論」を区別するための手として英米の国際政治学者はよく前者を小文字で、後者を大文字で書きます。
で、国際関係論は国際政治学とどう違うのか。K.J. Holstiの以下の説明が一般的に受け入れられているようです。
“the term international relations may refer to all forms of interaction between the members of separate societies, whether government-sponsored or not. The study of international relations includes the analysis of foreign policies or political processes between states; however, with its interest in all facets of relations between distinct societies, it would include as well studies of international trade unions, the International Red Cross, tourism, international trade, transportation, communication, and the development of international values and ethics. The student of international politics is not concerned with these types of relationships or phenomena, except where they impinge upon official government objectives or where they are employed by governments as instruments of inducement to achieve military or political objectives. . . . In international politics, we are concerned with international trade only to the extent that governments may employ economic threats, rewards, or punishments for political purposes, as when they promise to lower tariffs vis-醇A-vis another country in return for the right to establish a military base in that country.”(K.J.Holsti, International Politics: A Framework for Analysis, 6th ed. [1995], p.19).
中嶋氏は国際政治学の定義については詳しく説明していませんが、おそらくホルスティの議論にかなり近い立場をとっていると容易に推測されます。要するに、国際政治学は政府が関わる国家間関係について研究をするが、国際関係論は国境を越えるアクター間の関わりすべてを研究対象とするということです。中嶋氏は国際政治学というディシプリンでは相互依存の深まった現代国際社会を分析するのに不十分であり、国際関係論の国際政治学に対する優位性を暗に示唆しています。
容易に理解しがたかったのは国際政治学を国際関係論に発展させようとした先駆者はE.H.カーであるという主張です。
「E・H・カーが『危機の二〇年』で、当時の新しい学問であった国際政治学から、さらに、国際社会の包括的な解明を目的とする国際関係論へと導こうとした時期に先がけて、すでに欧米では第一次世界大戦前後から国際関係論(the study of international relations)と銘打った著作が刊行されはじめていた。」(p.44)
「以上に見てきたように、国際関係論の構築というE・H・カーの問題提起にもかかわらず、実際には、国際関係論の学問的展開の大半は、国際政治学の学問領域と重なっている。それだけに、国際関係論は、その土台としての地域研究の成果を十分に取り入れることによってこそ、より包括的な体系と内容を整えることになると思われる。国際政治学がしばしば陥りがちな理論信仰を排するためにも、国際政治学をも包括した実証的な総合科学としての国際関係論の確立が望まれるゆえんである。」(p.56)
確かにカーの『危機の二〇年』のサブタイトルはAn Introduction to the Study of International Relationsですが、別に彼はInternational PoliticsとInternational Relationsの区別なんて気にしてなかっただけなのではないでしょうか(調べたわけではありません。単なる推測です)。
個人的には国際政治学と国際関係論の区別なんてどうでもいいと思っています。この区別にこだわっている学者の大半はより包括的な「国際関係論」という用語を使うことを好むようですが、その人たちに軽く尋ねてみてください。「先生は国際、えーと国際なに学者なのですか?」
ほとんどの人は「国際政治学者だよ」と返答しますから。「国際政治学」における「政治」とは何を意味するかなんてほとんどの国際政治学者はいちいち考えたりしていません。自分の研究している学問が国際政治学と呼ばれるようが国際関係論と呼ばれようがどうでもいいことです。
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